羊と羊肉について

 ひとことに羊といっても、その品種はさまざまです。また、羊の肉には、ほかの食肉にはないすぐれた特徴があります。それを知れば、ますますジンギスカンを食べたくなってくることうけあいです。

えさを食べる羊羊の種類
 羊は偶蹄目反芻亜目牛科に属しており、いわば牛の仲間です。羊が家畜化されたのはおよそ1万1000年前、現在のイラク北部でのことといわれています。まさに人類史上最初の家畜といってもいいでしょう。
 一口に羊といっても実にたくさんの品種があります。大きくは羊毛を取るための「細毛種」、食肉用の「マトン種」、繁殖力の高い「短尾種」、乳用の「脂肪尾種」、熱帯地方で食用となっている「粗毛種」に分けられます。その中で食用の「マトン種」ですが、これにもサフォーク、レスターをはじめたくさんの品種があります。良質の羊毛と食用としての価値をあわせもつ品種を作りだそうとして、コリデールをはじめとして新品種もたくさん生まれています。サフォーク種
 食用の羊肉でよく聞くのがサフォーク種です。これはイングランド南東部のサフォーク州が原産で、体が丈夫で多産性、早熟性、肥育性をあわせもつ品種といわれています。顔と足は黒い毛でおおわれているため、パンダ羊と呼ぶ人もいるとか。肉は余分の脂肪がなくて赤肉が多く、肉質に優れています。日本に初めて導入されたのは昭和31年で、現在の国内の飼育頭数の約80パーセントを占めています。
 現在世界最大の羊肉の輸出国はニュージーランドです。その年間生産高は120万トンに上っています。有名な「カンタベリー・ラム」は、イギリス市場向けに主として雑種の雌羊とレスター種の雄羊を交配して作り出されたものです。オーストラリアも食用羊肉の主力輸出国です。また、遠く北極圏の国、アイスランドもヨーロッパ向けに羊肉の輸出がさかんです。また、品種ではありませんが、フランスの沿岸牧草地で塩分のたっぷり含んだ草とコケを食べて育った子羊は「プレ・サレ」と呼ばれ、フランス料理でたいへん珍重されています。


羊肉の種類
 羊肉自体にも種類があります。一般によく知られているのがラム、マトンという種類分けですが、国によって分類の仕方もいろいろのようです。子羊の肉はさまざまな料理で重宝されていますが、だからといってマトンはおいしくないというわけでもないようです。

生ラム肉●ラムとマトン
 ラムが生後1年未満の羊の肉とされ、マトンはだいたい2歳以上の成羊の肉をさしています。ではその中間はというと、ホゲットと呼ばれてオーストラリアやニュージーランドでは流通しているようですが、輸出での呼称は認められていないため、日本ではマトンとして流通しているようです。もっとも、この分類の仕方は国によって違いがあり、下顎の永久歯の数で見分けたり、腕の関節の発育具合で見分ける国もあるそうです。また、ヨーロッパではさらにくわしく分けられており、若い順からホットハウス、スプリング、ラム、イヤリング、マトンの5種類に分類されているといいます。

 牛肉も子牛の肉が貴重とされるように、ラムは柔らかくクセがない肉として人気があります。生産者としては飼育期間が短くて需要が多いわけですから、コスト的に有利な子羊のうちに出荷することが多いようです。
 一方マトンは肉質が固く、臭いというイメージが一般的ですが、これは誤った認識のようです。というのも、冷凍のマトンは鮮度管理が非常に難しく、ちょっと鮮度が落ちただけで強い臭いが出てしまう傾向があるのです。その臭みのもとはカプリル酸、ペラルゴン酸、アルファメチル酸といわれています。料理研究家の中にも、マトンの脂は臭いので取り除いて調理するようにという人もいるそうですが、かつての冷凍技術が未熟な時代に流通していた冷凍マトンが、そのような認識を一般的にしてしまったのでしょう。現在は冷凍技術の発達にともなって本来のマトンのうまみを味わえるようになっています。これは好みにもよりますが、ジンギスカンにした場合、上質なラムだとクセがなさすぎて味に深みがなく、昔からよく食べている人にとっては物足りなささえ感じます。ジンギスカン用としてはマトンをすすめるお肉屋さんもいるほどです。

●生肉と冷凍肉の違い
 羊肉ではよく生ラムという言葉を耳にしますが、生肉と冷凍肉ではどう違うのでしょうか。まず生肉は冷凍されたものにくらべみずみずしく、柔らかさを保っているため貴重とされます。冷凍されたものはどうしても凍結時に細胞内の水分が結晶化して細胞膜を壊し、その水分が解凍時に出てしまうのでぱさぱさして固くなりがちです。また、においをはじめとするクセも強くなってしまいます。もっとも、クセに関してはうまみの一種なので、むしろ冷凍肉の方が好きだという人もいます。焼く時にも冷凍肉のほうが焦げずに上手に焼けるという利点もあります。

●熟成について
 生肉は冷蔵されている間に熟成しておいしいお肉になります。摂氏3〜5度におかれた肉は、中の酵素が繊維を分解してうまみ成分を増やしていくのですが、これが熟成です。温度が高ければ腐敗し、低ければ熟成は進みません。また、いったん冷凍すると熟成はストップし、解凍してからは再び熟成をはじめることはありません。肉によって熟成の日数が違い、鶏は24時間、豚は1週間、牛は3週間、そして羊は10〜15日ということです。この熟成をきちんと行っているかどうかも肉のおいしさに大きな影響を与えるわけです。こればかりは消費者が入手する以前の過程なので、信頼できるお肉屋さんから肉を調達することが大切といえます。ただ、熟成した肉とそうでない肉の見分け方は割と単純で、熟成していない肉は赤身が透き通っているそうです。熟成が進むにつれて透明感がなくなってくるそう。これが見分けられるようになったらかなりの羊肉通ではないでしょうか。

ロール肉●ロール肉って?
 ビール園などで出てくるジンギスカンは決まって丸い冷凍肉ですが、これがロールラム(ロールマトン)とよばれるものです。スーパーなどで手に入るのもたいていはこのロール肉です。これは肉の端材が無駄にならないように丸く詰めたもの長沼ラム味付で、冷凍にすればスライスするのも容易なので広まったようです。モノによっては骨抜きが完全でないものや、冷凍肉を解凍・整形してまた冷凍したものなどもあって、風味の面などで不安があります。もっとも、昔からあの丸いロール肉に慣れ親しんできた人のなかには、上品な生ラムなどではジンギスカンという気がしない、という向きもあると思いますが。

●味付けジンギスカン
 あらかじめタレに漬かった肉を焼く味付けジンギスカンも多く見られます。北海道では松尾ジンギスカンチェーンが有名ですし、スーパーでも袋入りの商品を見かけることがあります。タレに漬かっていることで羊肉臭さがマイルドになるからか、冷凍肉は食べられなくてもこちらは平気という人もいます。漬け込まれていないジンギスカンは肉のグレードがもろに味に出るのにくらべ、タレに漬け込めばどんな肉でもそこそこ食べられるものになります。羊肉自体の本当のおいしさを味わおうと思えば、やはりたれを後でつける食べ方に軍配が上がるのではと思いますが、味付け肉を焼いたときの香ばしい風味もまたジンギスカンの魅力の一つといえるでしょう。

部位による種類分け
 牛と同じようにさまざまな部位があり、特徴も違うので部位ごとに使われる料理が違っています。ジンギスカンは特にどの部位を使うというセオリーはありませんが、一番多く使われるのはショルダーとレッグでしょうか。
【ショルダー】
肩の部分です。首の回り(ネック)と前肢(アーム)を含める場合もあります。中でも肩ロースとよばれる部分は脂肪が適度にのって、羊らしいおいしさを楽しめるので人気があります。
【ラック】
背の部位で、脊髄で切り分ける前のブロックは眼鏡型をしており、サドルともよばれます。脊髄で二つに分けた状態がフレンチラックなどとよばれるものです。それを肋骨一本ごとに切り分けるとチョップになります。ローストやステーキに向いた人気の部位です。
【ショートロイン】
腰の部分です。ラック部分と合わせてロングロインとよぶこともあります。ステーキには一番向いた部分です。テンダーロインとよばれる部位はいわゆるヒレ肉で、羊肉の中で一番高価な部分です。
【レッグ】
いわゆるもも肉です。脂肪が少ない赤身部分は羊の風味も少な目であっさりしているので、羊肉初心者には向いています。切り分ける前のブロック状のもので骨を抜いたものがボンレスレッグ、イージーカーブドレッグなどの名前で売られています。ローストやステーキにも向いています。また、トップサイドとよばれる内股部分は柔らかくて脂肪もなく、タタキなどに使われます。すねの部分はカレーやシチューに使われます。
【アーム】
前肢の部分です。シャンクとよばれるすねの部分はカレーやシチューに向いています。
【スペアリブ】
胸にあたる部分です。肋骨ごと焼くスペアリブローストや煮込み料理に使われます。5cm程度にカットされたものはフィンガーリブなどともよばれます。
【フランク】
腹にあたる部分で、赤身よりも脂肪が多めでバラ肉といわれます。煮込み用や加工用のほかカバブ料理にはこのあたりが使われます。

●肥育方法のちがい
 肉質に関する表記でグラスフェッド/グレインフェッドという表記を目にすることがあります。これは肥育方法をあらわしたもので、グラスフェッドというのは自然の牧草を食べながら飼育された羊のことをさします。赤身が多く、あっさりした味わいが特徴で、無駄な脂肪分がないのでヘルシー志向になります。一方グレインフェッドというのは肥育場で栄養価の高い穀物飼料により肥育されたもので、ジューシーなお肉になるといわれています。ニュージーランドはグラスフェッド(牧草のみ)、オーストラリアは牧草+干し草での肥育で、一部にグレインフェッドも取りいれているようです。


羊肉の特徴
 イギリスの王室料理やフランス料理界では子羊の肉は最高の食材とされており、牛肉よりも価値が高いとさえいわれています。そのおいしさは世界が認めているといったところでしょうか。おいしいばかりではありません。調べてみると食品としての利点をいっぱい持った、理想的な食材だということが分かってきます。特に近年、ダイエットにも向いているということで注目を集めています。

●高い栄養価
 羊肉は牛乳並みの高タンパクを誇ります。そして、タンパク質を構成するすべての必須アミノ酸を、人間にとってほぼ理想的な比率で供給してくれるのです。基本的なアミノ酸8種類は人間が作ることはできませんが、体内でこれらの酸がタンパク質に変わり、人間の組織を作ります。米や豆類も重要なタンパク源ですが、羊肉に比べると比較になりません。牛肉と同じようにレア(生焼き)で食べられるので、栄養素も壊さずに摂取することができます。
●豊富なミネラル分
 羊肉には
非常に吸収されやすい鉄分が豊富に含まれています。貧血に悩む方や、冷え症に悩む女性にとっては強い味方といえます。 また、鉄分と同様に不足すると貧血の原因となるビタミンB12をはじめ、疲れをとるビタミンB1、皮膚を美しく保ち老化を防止するビタミンB2、胃腸病や皮膚炎を防ぐナイアシンなどのビタミンB群もたっぷり。アトピー性皮膚炎にも良いといわれています。 さらに、亜鉛は免疫細胞を活性化させ、病原体に強い抵抗力をつけることができるものですが、成人が1日あたりに必要とする量の23%がラム100g中に含まれているほか、カルシウムも豊富に含んでいます。現代の食生活では不足しがちなこれらミネラルを、羊肉は実に理想的に供給してくれるのです。
●羊の脂はとけにくい
 羊肉の脂肪は融点(溶けて液体になる温度)が牛肉や豚肉に比べて高い(44℃)ため、体内に入っても吸収されにくいという特質があります。逆に赤身は消化が早く、栄養を効率よく吸収することができます。そのため羊肉はある程度食べてもカロリーは上がらず、身体に必要な栄養を摂取できるというわけです。ちなみに赤身の羊肉100gは約143カロリー。カロリーが比較的低い割には栄養分が多く含まれ、美容食といってもいいほどです。
●ダイエットに向いたヘルシー肉
 動物のタンパク質に含まれ、摂取すると細胞内の脂肪を燃やす効果があるアミノ酸の一種が「カルニチン」です。カルニチンは人の体内でも作られますが、20代後半を過ぎると老化に伴って合成量はどんどん減っていきます。そうなると食事で取り入れたいわけですが、食肉の中で最も多く含まれるのが羊で、牛や豚に比べると3〜10倍も多く含まれています。羊肉のなかでもマトンにより多く含まれ、脚部分に多いということです。食べると体内の脂肪の燃焼を促進してくれるわけですから、肥満防止にも役立つヘルシー志向にぴったりで、ウエイトコントロールをする人にも最適というわけです。また、カルニチンが体内で代謝してできるアセチルカルニチンは、脳細胞の再生に必要な物質。脳細胞を活発にしてくれ、痴呆症予防にもなります。
●気になるコレステロール値
 心臓病などの原因になり、肉類に多いといわれているコレステロール。おもな食品100gあたりのコレステロール含有量は、牛肉65mg、豚肉69mg、バター210mg、卵250mg。それに対して羊肉は50mgと魚肉と同じレベルです。また、
コレステロール値を下げ、動脈硬化・血栓ができるのをおさえてくれる不飽和脂肪酸も、羊には豊富に含まれています。 コレステロールが少ないばかりでなく、コレステロール値を下げる効果も期待できるというわけです。

●漢方でも効能
 漢方では羊肉は身体を温める作用があるといわれます。そのため中国では羊のしゃぶしゃぶ「シュワンヤンロウ」は冬場の必須メニューです。冷え症のほかにも生理不順・精力減退・腰がだるい・夜尿症・疲れやすいなどの悩みを抱える人は、季節を問わず食べるとよいそうです。また、血を増やして気力を増し、弱った体を丈夫にする働きもあるそうです。


肉をとりまく現状

●日本の羊肉消費量
 日本における平成15年の羊肉消費量は2.7万トン(うち国産は300トンほど。ほとんど市場には流通しない)。牛は124万トン(国内産50万トン、輸入74万トン)、豚は242万トン(国内産127万トン、輸入115万トン)、鳥183万トン(国内産124万トン、輸入59万トン)なので羊肉の少なさは際だっています。国民一人あたりに換算すると年間400グラムとのこと。ちなみに豪州は17.5キログラム、イギリス6.4キログラムといいます。一方日本人一人あたりだと牛肉は8kg、豚肉は15kg、鶏肉は11kg消費している勘定です。日本人がいかに羊肉を食べていないかがよく分かります。
*農林水産省 食料需給表による
●羊肉輸入量の推移
 右はここ10年の輸入量をグラフにしたものです。ここ数年減少していることが分かります。'04年で少し持ち直したように見えますが'03年は2.2万トンで'95年の半分以下のレベルです。羊肉需要が先細りになっているようで気になりますが、輸入商社によるとこれはソーセージなど加工用のマトンが少なくなっている影響だということです。一般用の羊肉需要は上向いているとのことで、ジンギスカンなどに用いられるチルドラムの輸入量は年々増加しているのがそれを裏付けています。
 また、輸入される羊肉のおおむね55パーセントはオーストラリア産、44パーセントがニュージーランド産ということです。残りの1パーセントはアイスランドあたりでしょうか。疫病の関係で欧州からの輸入がストップしている影響もあると思われます。
*ANZCO資料による(データは通関統計)

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